マウスピース矯正は喋りにくい?発音への影響と慣れるまでの期間
マウスピース矯正のよくある質問
マウスピース矯正は喋りにくい?
発音への影響と慣れるまでの期間
「マウスピースをつけたまま普通に喋れますか?」
「仕事でよく話すので、発音がおかしくならないか心配です」
マウスピース矯正の相談をしていると、実はこの質問、かなりよく聞かれます。
先に結論からお話しすると、マウスピースをつけ始めた直後は、少し喋りにくいと感じることがあります。
特に気になりやすいのが「サ行」などの音です。
「少し舌足らずな感じがする」「サ行だけいつもと違う気がする」とおっしゃる方もいます。
ただ、ずっとそのままというわけではありません。舌もだんだんマウスピースが入った状態に慣れてきますので、多くの場合は時間とともに話しやすくなっていきます。
まず知っておいてほしいこと
マウスピース矯正で発音が少し変わることはあります。ただし、その変化は多くの場合一時的です。「マウスピース矯正を始めたら、ずっと喋りにくい」ということではありません。
なぜマウスピースをつけると発音が変わるの?
そもそも、私たちはどうやって「サ」「シ」「ス」といった音を出しているのでしょうか。
普段はまったく意識していませんが、喋るときには舌、歯、唇、口蓋などをかなり細かく動かしています。
特に「サ行」のような音は、舌と前歯の位置関係や、その間を抜ける空気の流れが発音に関係します。

マウスピースを装着すると、歯の表面に薄い樹脂の層が加わります。
ほんのわずかな厚みなのですが、舌にとっては今までなかったものが突然そこに現れるわけです。
マウスピースを装着
↓
舌が触れる歯の形や厚みが少し変わる
↓
装着直後は舌がいつもの感覚で動けず、発音に違和感が出ることがある
ですから、「マウスピースをつけると声が出しにくくなる」というよりは、舌が新しい口の中の環境にまだ慣れていないと考えるとわかりやすいと思います。
どんな音が喋りにくくなりやすい?
これまでの研究では、マウスピース型の矯正装置を装着すると、特に「歯擦音」と呼ばれる音に変化が出やすいことが報告されています。
| 研究で影響が報告されている音 | 日本語でイメージすると |
|---|---|
| /s/ | 「サ・ス・セ・ソ」など |
| /z/ | 「ザ・ズ・ゼ・ゾ」など |
| /sh/ など | 「シ」に近い音など |
もちろん、海外の研究で使われている音をそのまま日本語に置き換えられるわけではありません。
ただ、実際の診療でも「サ行だけ少し言いにくい」「早口になると気になる」といったお話を聞くことはあります。
ここで大切なのは、「最初に喋りにくい=この先ずっと喋りにくい」ではないということです。
では、どのくらいで慣れる?
ここが一番気になるところですよね。
2023年に「European Journal of Orthodontics」に掲載されたシステマティックレビューでは、マウスピース型矯正装置と発音について7つの研究、合計332人のデータが検討されています。
研究で報告されている適応期間
多くは7〜14日
一部では30〜60日ほどかかった例も報告されています

実際には個人差がありますので、「1週間たてば必ず普通に喋れる」と約束できるものではありません。
それでも、多くの方が装着を続けているうちに少しずつコツをつかみ、最初に感じていた違和感をあまり意識しなくなっていきます。
なお、この分野の研究はまだ十分とはいえません。先ほどのシステマティックレビューでも、研究方法の違いやバイアスの問題から、エビデンスの確実性は「低い」と評価されています。
そのため当院でも、「絶対に○日で慣れます」といった説明はせず、個人差があることも含めてお話ししています。
仕事で一日中喋る人はどうする?
これもよく聞かれます。
「営業なので一日中、人と話します」
「電話対応が多い仕事です」
「接客業なので喋り方が変わると困ります」
「人前で講演することがあります」

こういう場合、私なら「じゃあ、いつから始めましょうか」というところまで一緒に考えます。
たとえば来週に大切なプレゼンがある方なら、その直前に初めてマウスピースを装着するより、少し余裕を持ってスタートしたほうが安心です。
結婚式、講演、面接、大切な商談などが控えている場合も同じです。
診察のときに遠慮なく教えてください
「来月、大事なプレゼンがあります」「仕事柄、一日中喋ります」といったことも、矯正治療では大切な情報です。歯並びだけではなく、普段の生活も考えながら治療計画を立てていきます。
少しでも早く慣れるためにできること
① つけた状態で普通に喋ってみる
最初は違和感があるので、喋るときだけ外したくなるかもしれません。
ただ、装着した状態で喋ること自体が、舌にとっては新しい環境に慣れる機会になります。必要な装着時間を守りながら、まずは普段どおり話してみてください。
② 家で少し音読してみる
「自分の発音が気になる」という方は、本やニュースなどを声に出して読んでみるのもひとつです。
特に自分が言いにくいと感じる言葉を、最初は少しゆっくり発音してみるとよいでしょう。
③ 最初から完璧に喋ろうとしなくて大丈夫
マウスピースを初めて入れた日は、舌からすれば口の中の形が突然変わったようなものです。
少し話しにくくても不思議ではありません。最初は少しゆっくり話して、舌が慣れてくるのを待ってみてください。
喋りにくいときは外してもいい?
「仕事中だけ外しておけばいいですか?」と聞かれることもあります。
マウスピース型の矯正装置は、決められた時間きちんと装着することを前提に歯を動かしていきます。
会話をするたびに外していると、気づかないうちに外している時間が長くなってしまうことがあります。
自己判断で装着時間を減らさないようにしましょう
発音の違和感がなかなか改善しない場合や、仕事に支障が出るほど喋りにくい場合には、外す時間を増やすのではなく、まず担当の矯正歯科医に相談してください。
ワイヤー矯正よりマウスピースのほうが喋りやすい?
これは「マウスピースのほうが絶対に喋りやすい」とまでは言えません。
表側のワイヤー矯正、歯の裏側につける舌側矯正、マウスピース矯正では、それぞれ装置が入る場所が違います。当然、舌や唇への影響も違ってきます。
特に舌側矯正は歯の裏側に装置がつくため、舌が装置に直接触れます。一方、マウスピース矯正も歯全体を薄い装置で覆うため、発音への影響がまったくないわけではありません。
ですから、装置を選ぶときは「目立つ・目立たない」だけではなく、歯並びや噛み合わせ、仕事内容、生活スタイルなども含めて考えることが大切です。
私が矯正相談で大切にしていること
矯正治療というと、どうしても「この歯並びをどう治すか」という話が中心になりがちです。
もちろん、それは大切です。
でも実際に治療をするのは、毎日仕事をしたり、学校に行ったり、人と会ったりして生活している患者さんです。
だから私は、装置を決めるときに「この歯並びならこの装置」と機械的に決めるのではなく、仕事や生活についてもできるだけ伺うようにしています。
「仕事で一日中喋るんです」「来月結婚式があります」「人前で話す仕事です」。そんなことも、ぜひ矯正相談のときに教えてください。治療方法だけでなく、始めるタイミングまで含めて一緒に考えていきましょう。
まとめ
● マウスピースをつけ始めた直後は、少し喋りにくく感じることがあります
● 特にサ行など、舌と前歯の位置関係が大切な音では違和感が出ることがあります
● 研究では、多くの方が7〜14日程度で適応したと報告されています
● ただし個人差があり、慣れるまでにもう少し時間がかかる方もいます
● 喋りにくいからといって、自己判断で装着時間を減らすのはおすすめしません
● 仕事でよく喋る方は、治療を始める時期についても矯正歯科医に相談してみてください
参考文献
1. Baeshen HA, El-Bialy T, Alshehri A, et al. The effect of clear aligners on speech: a systematic review. European Journal of Orthodontics. 2023;45(1):11-19. doi:10.1093/ejo/cjac018.
2. Pogal-Sussman-Gandia CB, Tabbaa S, Al-Jewair T. Effects of Invisalign treatment on speech articulation. International Orthodontics. 2019;17(3):513-518. doi:10.1016/j.ortho.2019.06.011.
※発音への影響や慣れるまでの期間には個人差があります。また、マウスピース型矯正装置と発音に関する研究はまだ十分とはいえず、現在得られている研究結果には限界があります。
監修:
目白ヶ丘デンタルクリニック・矯正歯科
院長 藤澤將人
歯科医師/日本矯正歯科学会 認定医/日本歯周病学会 認定医
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