歯ぎしりマウスピースは軟性と硬性どっちがいい?
ナイトガードはソフトとハードどっちがいい?歯科医がメリット・デメリットを比較
歯科医院で「歯ぎしりや食いしばりがありますね」と指摘され、マウスピース(ナイトガード)の作製を勧められた経験がある方も多いのではないでしょうか。その際、「柔らかいソフトタイプと、硬いハードタイプのどちらが良いのだろう?」と疑問に思うかもしれません。
結論から申し上げますと、ナイトガードはソフトとハードのどちらが絶対に優れているというわけではなく、使用する目的やお口の状態によって選択することが重要です。この記事では、ナイトガードにおけるソフトタイプとハードタイプの比較、それぞれのメリット・デメリット、そして歯科医学的な観点からの選び方について解説します。

ナイトガードとは?
ナイトガードとは、主に就寝中に装着するマウスピースのことです。睡眠時ブラキシズム(歯ぎしり)や無意識の食いしばりによる強い力から、以下のようなトラブルを防ぐ(保護する)目的で使用されます。
- ご自身の歯の摩耗や欠損
- 歯が割れること(歯牙破折)
- コンポジットレジンやセラミックなどの修復物の破損
- 被せ物やインプラントへの過剰な負担
ナイトガードを装着すれば、歯ぎしりそのものが完全に治る(消失する)わけではありません。睡眠時のブラキシズムは単なる噛み合わせの異常(咬合異常)だけで起こるのではなく、中枢性の要因(脳の働き)や睡眠中の覚醒反応、ストレスなどが複雑に関与していると考えられています。[5]
ナイトガードの主な役割は、歯ぎしりの「力」から歯や顎を守ることにあります。
ソフトタイプのナイトガードとは?
ソフトタイプは、ゴムのような柔らかい熱可塑性樹脂などの素材で作られるマウスピースです。
ソフトタイプのメリット
- 材質が柔らかいため、比較的装着感が良く、異物感が少ない場合がある
- 強い力がかかった際、歯に対するクッションとして機能する
- 歯科医院での製作工程が比較的シンプルである
ソフトタイプのデメリット
- 柔らかい素材のため、穴が空いたり摩耗や変形をしやすい
- 噛み合わせ(咬合)の精密な調整が難しい場合がある
患者様によっては、柔らかい素材を無意識に強く噛み込んでしまうことがある
とくに3つ目の「噛み込み」については注意が必要です。著名な歯科医師であるOkesonによる1987年の研究[1]では、ハードスプリントとソフトスプリントで夜間の咀嚼筋活動に異なる反応が認められました。一部の被験者においては、ソフトスプリントを装着した際に筋活動が増加したことが報告されています。
ソフトタイプは食いしばりやTCHを増やす?
近年、「TCH(Tooth Contacting Habit:上下歯列接触癖)」という言葉を耳にする機会が増えました。通常、私たちがリラックスしている安静時には、上下の歯は接触しておらず、数ミリの隙間(安静空隙)があります。しかし、日中に無意識に上下の歯を接触させ続ける習慣(TCH)があると、咀嚼筋が疲労し、顎関節の症状に関与する可能性があると考えられています。
では、ソフトタイプのナイトガードがTCHや食いしばりを悪化させるのでしょうか。
現時点では、「ソフトタイプのナイトガードがTCHを発症させる」と直接的に証明した質の高いエビデンスは不足しています。そのため、「ソフトタイプ=絶対に良くない」と断定することはできません。[2]
しかし、先述の研究[1]などが示すように、
ハードタイプのナイトガードとは?
ハードタイプは、プラスチックの一種である硬いアクリリックレジンなどの素材で製作されるマウスピースです。
ハードタイプのメリット
- 耐久性が高く、穴が空きにくい
- 表面が硬いため、歯ぎしりによる摩耗状態を歯科医師が確認しやすい
- 噛み合わせ(咬合接触)を歯科医院で細かく調整・修正できる
- 全ての歯を覆うタイプであれば、歯の意図しない移動リスクを抑えやすい
ハードタイプのデメリット
- 硬い材質のため、装着し始めはソフトタイプより異物感や窮屈感が出ることがある
- 製作や適切な調整に歯科医師の技術と時間が求められる
注意点:ハードタイプであれば自動的に良い装置になるわけではありません。硬い装置を入れただけでは不快なだけでなく、かえって顎に負担をかけることもあります。ハードタイプの真価は、適切な「咬合調整」を行って初めて発揮されます。

スタビライゼーションスプリントとは?
ハードタイプのナイトガードについて語る上で非常に重要なのが、「スタビライゼーションスプリント」という概念です。これは単に歯列を硬い素材で覆っただけのものではなく、スプリント表面に治療目的の適切な噛み合わせ(咬合接触)を設定した装置のことを指します。「ミシガンスプリント」と呼ばれるものも、この一種に含まれます。
スタビライゼーションスプリントの主な特徴は以下の通りです。
- 全ての歯を被覆する(全顎被覆)
- 左右の歯がスプリント上で安定して均等に接触するよう調整されている
- 特定の部分だけが強く当たる「早期接触」を減らす
- 顎を動かした際の引っ掛かり(咬合干渉)を調整し、必要に応じて犬歯誘導などを設定する
- 歯だけでなく、咀嚼筋や顎関節を含めた顎口腔系全体の安定を目的とする
顎関節症の管理におけるスプリント療法には多くの研究(ランダム化比較試験やシステマティックレビュー)が存在し、有効性が報告されています。[4]
ただし、効果の大きさやエビデンスの確実性にはばらつきがあり、「スタビライゼーションスプリントを使えば必ず顎関節症が治る」という魔法の装置ではありません。あくまで総合的な治療計画の一部として機能します。

薄い均一厚のナイトガードなら十分?
市販品や一部の簡単な方法で作られた、透明なシートを歯に押し当てて作るだけの「均一な厚み」のナイトガードがあります。しかし、人間の歯は平らではなく、凹凸(咬頭)や元々の高さの違いがあります。
そのため、「材料の厚みが均一=噛み合わせも均一」にはなりません。一定の厚みのシートを被せた状態で口を閉じると、以下のような状態になることがあります。
- 右の奥歯だけが強く当たる
- 左側はほとんど接触しない
- 前歯だけが先に当たってしまう
このように不均一な接触がある状態や、本来の噛み合わせの位置と装置装着時の自然な位置が異なる状態では、装置を入れた状態で顎が安定しにくい可能性があります。[3]
とはいえ、「薄いナイトガード=悪い」というわけではありません。セラミック保護など、純粋に歯を傷から守る(歯牙保護)ことだけを目的とするケースでは、薄い装置が適している場合もあります。重要なのは、「何の目的で装置を使用するのか」そして「装着時の噛み合わせが歯科医師によって適切に確認・調整されているか」ということです。
部分的なナイトガードには注意
前歯だけ、あるいは奥歯の一部だけを覆うタイプの部分的なナイトガードを使用する際は注意が必要です。
全ての歯を覆っていない装置を長期間使用し続けると、覆われていない歯が伸びてきたり(挺出)、歯が移動したりすることで、根本的な噛み合わせの変化を引き起こすリスクがあります。そのため、一部の歯だけを覆う装置には、歯科医師による慎重な管理が欠かせません。
ソフトタイプとハードタイプを比較
ナイトガードのソフトとハードの特徴を比較表にまとめました。(※あくまで一般的な傾向であり、お口の状態によって個人差があります)
| 比較項目 | ソフトタイプ | ハードタイプ(調整型) |
|---|---|---|
| 装着感・初期の違和感 | 比較的良く、異物感が少ない | 最初は硬さや窮屈さを感じやすい |
| 歯牙保護(クッション性) | 〇(衝撃を吸収しやすい) | 〇(歯を摩耗から守る) |
| 耐久性 | △(穴が空きやすい・変形しやすい) | 〇(硬く摩耗しにくい) |
| 咬合調整の精密さ | 細かな調整が難しい | ミリ単位での精密な調整が可能 |
| 筋活動への影響 | 患者によっては噛み込みで増加することがある | 減少を示した研究があるが個人差あり |
| 顎関節症への応用 | △(限定的) | 〇(スタビライゼーションスプリントとして使用) |
| 強い食いしばり | 不向きな場合がある | 適している場合が多い |
| 修理・再調整 | 困難(作り直しになることが多い) | 削る・盛るなどの修正が可能 |
どんな人にハードタイプが向いている?
以下のような症状やお悩みがある方は、精密な調整が可能なハードタイプ(スタビライゼーションスプリント)が適している可能性があります。
- 朝起きると顎(咬筋など)が疲れている、だるい
- 日中も無意識に強い食いしばりをしている
- 顎関節症の症状(顎の痛み、音が鳴る、口が開けにくい)がある
- これまでに自分の歯が欠けたり割れたりした(歯牙破折)経験がある
- セラミックや銀歯などの被せ物がよく取れたり壊れたりする
- インプラント治療を受けており、インプラント体を過度な力から守りたい
- 過去にソフトタイプのナイトガードを使って、無意識に強く噛んでしまい余計に顎が疲れた経験がある
※最終的にどのタイプが適しているかは、歯科医師の診察によって判断いたします。
当院でのナイトガードの考え方
当院では、ナイトガードを「単に歯を覆って削れるのを防ぐだけのプラスチック」とは考えていません。
もちろん、歯の保護だけを目的とする場合にはシンプルな装置をご提案することもあります。しかし、咀嚼筋の疲労や顎関節の症状を伴う場合、歯・筋肉・顎関節を含めた顎口腔系全体の安定を目的とした設計が必要になります。
特に強い食いしばりや顎関節症状でお悩みの方には、必要に応じて硬いアクリリックレジンを用いたスタビライゼーションスプリントを選択し、
まとめ
ナイトガードにおけるソフトとハードの比較について解説しました。記事のポイントは以下の通りです。
- ソフトとハードのどちらが絶対に優れているわけではなく、使用目的によって選択することが重要です。
- 単なる歯の保護(こすれ防止)を目的とする場合は、装着感の良いソフトタイプも選択肢となります。
- 強い食いしばり、咀嚼筋の痛み、顎関節症状などがあり、顎の安定までを目的とする場合には、精密な噛み合わせ調整が可能なハードタイプのスタビライゼーションスプリントが適する症例が多くあります。
参考文献
- Okeson JP. The effects of hard and soft occlusal splints on nocturnal bruxism. J Am Dent Assoc. 1987;114(6):788-791. [PMID: 3475357]
- Wright E, Anderson G, Schulte J. A randomized clinical trial of intraoral soft splints and palliative treatment for masticatory muscle pain. J Orofac Pain. 1995;9(2):192-199. [PMID: 7488989]
- Narita N, et al. Effects of jaw clenching while wearing an occlusal splint on awareness of tiredness, bite force, and EEG power spectrum. J Prosthodont Res. 2009;53(2):64-69. [PMID: 19345662]
- Al-Moraissi EA, et al. Effectiveness of occlusal splint therapy in the management of temporomandibular disorders: network meta-analysis of randomized controlled trials. Int J Oral Maxillofac Surg. 2020;49(8):1042-1056. [PMID: 31982236]
- Ainoosah S, et al. Comparative analysis of different types of occlusal splints for the management of sleep bruxism: a systematic review. BMC Oral Health. 2024;24(1):29. [PMID: 38182999]

